『たんぽぽのお酒』は故レイ・ブラッドベリー本人が小さい頃の遠い昔の記憶に基づいたものだったそうで、数十年ぶりにその町に立ち寄って偶然そのモデルとなった老人に出会い、夏にたんぽぽのお酒をつけていた記憶が本当だったということを知りそして泣いたと、生前のインタビューで語っています。町に立ち寄ったのは亡くなる(2012年6月5日 没)少し前ということになっており、インタビューが採られた日は今や定かではありませんが、わたしがそのような話に触れてその日時に栞をつけたのは2016年3月15日のことでした。
「たんぽぽのお酒」では、未来のためのお酒の仕込みが「今」である夏に描かれて、その同じ夏に過去の冬の記憶(去年のお酒)が描かれていていますが、おそらくこのモデルとなった老人もそうやって確実にその年そしてまた次の年と生きていたのだと、このエピソードは(文学の中の時間とも異なる)遠いどこかの現実の年々をあたかもサガ(segja)のように、別の時間をいきる者に語りかけてきます。時の感覚は時に生に根拠を与える拠り所になっていて、または漠然とそう感じさせる何かがあります。

error: Content is protected !!