皺の標

アルファベットの語源はA-Bつまりギリシャ語のα-β(アルファ/ベータ)でもあり、流れをくむヘブライ語のaleph-beth/アレフベート aleph(牛)beth(家)からきているという説があります。『牛の家』というイメージと『アルファベット』はにわかには結びつかないわけですが、外見は中身と共振するというような話もあります。ひともカタチと中身はそもそも最初から同じではなくて中身が変われば外身もそのような印象を帯びてくる、逆もまたそうなのだと。

「マンチュリオフィクス」(ウェーブ・リップル/漣痕の上に生じたマッド・クラック/乾裂)とい う数億年前の海底の砂にできた模様の痕跡は、自然にできあがった模様があたかもアルファベットのようにみえるというものです。表音文字であるアルファベットも古代に遡れば人の手が生み出した形態なのであってその出自は非常に謎めいたものです。そう考えるとこの皺から見出された文字のような痕跡からアルファベットの形を再発見するプロセスというのは、古代に文字が形成された記憶のようなものを呼び起こす、あるいは新たに見出すきっかけとなるのかもしれません。このように一見くだらなさそうなことでも見方を変えると多様な示唆に富んでいたり、新たな発見ができます。

アートスクールの教え子から、そんな素敵なインスピレーションをいただきました。

皺から見出されたなんの変哲もない形象から生み出された新たなアルファベットのフォントセットは、まるでスクリプティウム(手描きの文字)のようにもみえるし、粘土板に刻まれた古代文字のようにもみえます。テキストベースの塊にした場合にまた新たな印象をもたらしてくれます。文字の集合全体のかたちとそれらの塊との間に余白が拡がり非常に美しい景観を形成しています。サンプリングされた場所を示す手の画像に刻まれた文字のビジュアルが、まるで考古学的資料のように。

3rd November 2021

methodC-A :   発掘された文字群の拓本

methodC-B :   タイプセット

methodC-C :   ライナーノーツ

 

©︎  横地英理子

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